自主経営の組織編

セルメスタ「自主経営の“土台づくり” -WHY 自主経営?-」

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「セルメスタが自主経営を志した背景」

 

本シリーズでは、株式会社セルメスタ(以下、セルメスタ)が自主経営の「土台づくり」にチャレンジしているリアルな現場を皆さまにお伝えできればと思っています。

今回は、まずは、「セルメスタが自主経営を志した背景」を、社長の熊倉利和のエピソードを交えて、インタビュー形式でお伝えしていきます。インタビュー役は、同じ世界観を共有できるNatural Organizations Lab株式会社の皆さんにお願いしています。次回以降は、実際の現場での、“土台づくり”の様子をお届けできればと考えています。

1.セルメスタとは
2.自主経営を志した背景
3.経営者の役割の変化
4.再建プランの愚直なまでの実行と成果
5.再建プラン達成後に感じた創りたい姿(自主経営を志す)

1.セルメスタとは

セルメスタは、1971年設立、医療品・健康用品、健康情報等の販売及び、医療費軽減及び健康増進をバックアップする専門集団です。

家庭用常備薬の販売を通じての病気の治癒だけではなく、病気の予防や、そもそも病気になりにくい健康な身体づくりを支援することにも事業を展開しています。「いかにして、健康寿命を長くすることができるか」、この社会課題に向かい合い続けている会社でもあります。

セルメスタでは、お客様向けだけではなく、自社においても、社員の健康をサポートする取り組み、健康経営を実践しています。

具体的な特徴は3つあります。

1つ目は、「トップ自ら健康経営を牽引」すること。

2つ目は健康経営の施策として、「食育活動をメインに推進」していること。

3つ目は社内に「健康経営推進委員会という組織を設置」し、トップだけでなく組織的で継続的に推進できる体制を整えていることです。

 

 

経営者である熊倉氏、自らが、断食やヨガ、瞑想を日常的に行い、趣味として空手やウルトラマラソン(100キロを14時間以内に走るハードなマラソン)、トレイルランニングを実践しているため、健康的に生きることの大切さを、身をもって実感していることは、とても重要であると感じます。

社長に刺激を受けて、社員の中でも、自分の生活習慣を食事から見直す方が増えてきています。

例えば、会社で準備してくれている、無添加で塩分5%未満のヘルシー弁当を食べることや(利用者には代金の1一部を補助)、「若玄米とお味噌汁」を1日3食10日間食べるプログラムを実践する等を行っています。

健康経営という標語だけではなく、日々の生活に落とし込むことで、確実に、健康な社員が増えていく循環を生み出していることに、セルメスタとしての決意を感じます。

 

 

では、このように、健康経営を実践し、事業の展開も治療から予防へと展開し続けているセルメスタにおいて、熊倉氏が自主経営を志したのはどうしてなのでしょうか?

熊倉氏の心の奥底にある想いを感じることを通して、赤字からの脱却という壮絶な危機を乗り越えていく中で、今の健康経営、さらには、自主経営へと、歩みを進めていったプロセスをお伝えしていきます。ここからは、インタビュー形式でお伝えしていきます。

Natural Organizations Lab の吉原史郎氏が聴き手、熊倉氏が語り手となります。

2.自主経営を志した背景

吉原:「熊倉社長が自主経営を志した背景は何だったのですか?」
熊倉:「自分が社長に就任した際、経営環境がとても悪化しており、これを解決するために社長としてトップダウンで新規事業を押し進めていったんですね。ただ、求めていた結果を得ることができずに苦しい思いをしていました。さらに、社員の魂も入っていないように感じていたんです。」

吉原:「その中で、社長としてどのように事に当たっていたのですか?」
熊倉:「結果を出すためには、『とにかく自分が強くならないとダメだ!』と感じていました。経営全般の情報や知識の習得に限らず、精神力や体力の強化、強くなると思えることは何でもやっていました。

とにかくそれらを実践し続けていました。継続することで次第に、自分が強くなっている実感を持ち始めていきました。

自己が確立していく一方、『自分の軸の大切さを踏まえた上で、(自分の追い求めている理想に対しては)1人でできることは、たかが知れている』とも痛感していました」

 

※「1人でできることは、たかが知れている」。このことを痛感されていることは、自主経営を進めていくためにも、とても大きな気付きであると感じています。「1人でできる」から、「みんなでできる」への移行が必要であり、そのためには、経営者が強くそのことを自覚していることが大切であるからです。

吉原:「熊倉社長だけで変革業務にあたっていたのですか?」
熊倉:「メイン銀行主導で外部の再建支援コンサルタントが入ったのです。その中で、自組織のメンバーの声を聴いてみたんですね。すると、経営陣に対する深刻な不満が、これでもかというくらいに出てきて、現実をまざまざと知りました。

『正しさだけでは人は動かない』という強烈な気付きを得ました。この状況下で、これまでのトップダウン型でさらに進めても、結果が出ないと感じました。そのため、結果を出すためにも、これまで結果が出せなかったことについて、全社員の前で謝罪をし、まず、自分が変わることを宣言しました」

吉原:「痛烈な現実を受け止められたのですね…」
熊倉:「はい。その後、トップダウン時代の経営陣の後任として、社員からの投票で、現場から信頼が厚いメンバーを幹部メンバーとして選抜することに決めました。幹部メンバーが中心となって、経営の難局を共に乗り越えていくことに挑戦することにしました」

 

3.経営者の役割の変化

吉原:「とても勇気がいる決断だったと思います。熊倉社長の役割はどう変わったのですか?」
熊倉「私自身は、ボトムアップ型の経営者として、提案に対してのアドバイスに徹する役割に挑戦をすることになりました。

幹部メンバーにとっても、初めての再建のためのプラン作りであったため、一進一退で進めていくことになりました。正直、スピードは遅く、経営者として、本当にじれったい気持ちとの格闘の日々を過ごしていました」

吉原:「それはじれったい気持ちだったことと察します」
熊倉:「とてもじれったい日々でした。さらに、一度プランができて、そのプランに沿って再建策を進めている最中に、更なる経営環境の悪化が発覚してしまいました。つまり、初期のプランを見直す必要が発生してしまったのです。

さすがに、幹部メンバーに初期プランの見直しの要請をしました。数週間の検討の後、幹部メンバーが最終的に出した結論が『これ以上の見直しは会社も社員も持ちこたえられない』だったんですね。その際、私の中に、『できないなら自分がやる』という非常に強い感情が生まれて、心を支配しました。

ただ、彼らの悲痛な訴えを聞く中で、再建プランを反故にするということは、『メンバーを信頼していないことになる』と何とか思い直し、ボトムアップの初心に帰ることができました」

※トップダウンからボトムアップへの葛藤に正面から向き合いながら、経営者として、メンバーを信頼することを選んだ熊倉氏。そのような葛藤の中、メンバーの悲痛な訴えを聞くことができていること自体が経営者として素晴らしいあり方ではないかと感じます。

 

4.再建プランの愚直なまでの実行と成果

吉原:「その後、どのように進んでいったのですか?」
熊倉:「初期の再建プランを進んでは戻り、戻っては進むといった1年を過ごしていました。

早期退職や不採算部門の見直し等、心が擦り減る業務を不安な表情を見せながらも七転八倒する幹部メンバーを中心に、本気でPDCAを毎週回し続けました。本当に愚直に行い、何とかこなしていきました。

ただ、今の厳しい状況を打開するために必要だと思うことをボトムアップ型でやり続けました。

『絶対にこれで大丈夫!』という確固たる姿勢を、幹部メンバーをはじめとする社員に示す一方で、

『(トップダウン型に戻してでも)再建策を見直すべきではなかったのか』『再建策で結果が出せなかったら今度こそ自分はどう責任を取ったらいいのか』『まだまだ頼りない幹部メンバーが本当に結果を出してくれるのか』というこのような経営者としての葛藤、不安に心が大きく揺れ動いた1年間でした。

『とにかく自分が強くならないとダメだ!』、『だけど、1人でできることは、たかが知れている。人を信じよう』と自分で自分に言い聞かせていた日々でした」

 

 

吉原:「壮絶な日々を過ごされていたのですね。」
熊倉:「1年目が終わり、再建策の効果が数字で表れたんです!社内の風向きが変わりました。次の2年目は、幹部メンバーを中心に、多くの再建プロジェクトが立ち上がり、それらのプロジェクトが横断的に改革を進めていくという形になっていきました。

社員を主役にという言葉が、現実になっていったのです。2年目の後、さらに効果が数字で生まれました。『リストラは間違っていなかった!』メンバーの中でも、自分達が行ってきたことが間違っていないことへの確信が生まれてきました」

吉原:「素晴らしい改革の取り組みだと感じます」
熊倉:「経営の窮地を切り抜けた経験から、『王道を行っている。自分の考えは正しい』というトップダウン型と『メンバーにアドバイスをして、支援する』というボトムアップ型は、どちらかではなく、両方が包摂されていることを意識していることが大切だと実感しました。トップにしか見えていない景色があり、現場にしか見えていない景色があると思うからです」

※トップダウン型とボトムアップ型の捉え方として、両方が包摂されていることを意識しているというメッセージはとても深いものがあると感じています。

両方が包摂されていると意識されている熊倉氏は、経営者側か現場側かではなくて、それら全てが統合された、組織の全体性を感じながら、経営をされていると思うからです。

5.再建プラン達成後に感じた創りたい姿(自主経営を志す)

熊倉:「経営に一呼吸をおくことができ、メンバー、社員たちを見たときに、自信に満ち溢れ、精悍な顔つきになっているメンバーがいる一方で、心身共に疲弊している社員がいることに気が付きました。

共に難局を乗り越えてきた仲間たちに、無限の感謝の念が湧き上がってくるのと同時に、この会社を健康で幸せに仕事ができる組織にしたいと心底思うようになりました。

『業績の回復と共に成長している社員とそうでない社員がいるのはなぜだろうか?』。自分にとって一番大事な価値観は何か、ある意味、仕事におけるポリシーを持っていて、それを仕事で表現できている社員とそうでない社員の差であるように思っています。

健康で幸せに仕事をしていくために必要なこととして、自分にとって一番大事な価値観は何かの振り返りの機会や、仕事の役割の明確化、自分の仕事の役割と一番大事な価値観との調整、自然と自主経営が育まれていくような土台作りをさらに進めていこうと考えています。

また、私がとにかく自分が強くならないとダメだと思って、学び実践してきた健康に関する知恵を健康経営として、メンバーにも伝えていきたいと考えています」

 

 

吉原:「熊倉社長、お話、ありがとうございます。自主経営の土台づくりを決意されるまでの背景が経営者としての葛藤の歴史と共に、ありありと浮かんで参りました」

以上、インタビュー形式で、熊倉氏のこれまでの経営の歴史から、自主経営を志した背景をお伝えしてきました。自主経営とは、いきなり手段として実行するものではなくて、経営を進めてくる中で、様々な経験や葛藤を経て、自然と志すものであることを感じてもらえたと思います。

経営や葛藤に彩られた、心の奥底の想いがあるからこそ、メンバーも一緒に新たなチャレンジに向かって進んでいくことができるのだと思います。

次回以降は、このような想いのもと、自主経営の“土台づくり”を進めていく現場のリアルを、生まれてくる小さな変化を大切にしながら、お伝えしていきます。次回は、「自主経営の“土台づくり”その①-心と頭の循環-」となります。

本レポートが、読者の皆さまの現場を半歩でも進めていくための一助となれば、とても嬉しく思っています。

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